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Mar. 20, '99
最終改訂: May., 18. '01
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(第5回) 設備、装置の熱伝達と熱輻射
グローバル エネルギー・環境研究所 下 村 寛 昭
前回の熱伝導、流体の流れと熱伝達に続いて、工場から家庭の設備や機器等にとって実際的な伝熱性能と伝熱のもう一つの形である熱輻射について考えよう。
1.熱機器の伝熱と熱貫流率 工場のボイラー、冷却器等の熱交換機類、ビルの空調機器やビルの内側と外側との間の熱の出入り、家庭の給湯器や風呂釜等の伝熱性能はエネルギー消費に密接な関係を有するとともに、ビルや住居の住み心地の良さと経済性に大きな影響がある。 さらに、我々の衣類や布団の着心地の良さはつまるところ、それらの伝熱性能に大きな関係がある。 前回説明したように、強制対流や自然対流では、物体の表面に沿って流れる気体や液体の流れを表すレイノルズ数(Re)やグラスホフ数(Gr)と流体固有の性質を表すプラントル数(Pr)から、簡単な計算で平均的な熱伝達係数α が求まることが判った。 しかしながら、このようにして求めた熱伝達係数は、物体の表面と流体間の熱の伝わり易さを示す数値であり、高低両流体間の熱の伝わり易さを示す数値ではない。 ボイラーやビル等で必要な数値は、前者では高温の燃焼ガスとボイラー水との間の熱の伝わり易さであり、ビルや住宅の空調負荷等の計算では、建物の内外にある空気相互間の熱の伝わり易さが必要になる。 これらの場合、両側の流体の間にはボイラーチューブや建家の壁あるいはガラス窓等の固体壁があり、その内外面では、流体の流れや種類等の条件が一般に異なるので、それぞれの熱伝達係数も異なる。 また、両方の間の固体壁もその厚さと熱伝導率に応じて、熱の流れに影響を与える。 このような様子は図1.1に示すように、両流体間の温度差を生じる。 このようにいくつかの伝熱媒体と熱抵抗を経て熱が伝えられる場合、両端にある流体間の熱の伝わり易さは、熱貫流率Uと呼ばれる。 換言すれば、熱貫流率の逆数である両流体間の熱抵抗は、(1.1)に示すように固体壁内外面のそれぞれの流体と壁との間の熱抵抗(内外面の熱伝達係数の逆数)と固体壁自身の熱抵抗である(固体壁の厚さ/固体壁の熱伝導率)を足し合わせた値となる。 従って、全熱抵抗の逆数である熱貫流率U は(1.2)で求められる。
(両流体間の熱抵抗)
図1.1熱流を伴う固体壁と流体の温度分布
図1.1に示すように、単位面積当たりの熱流をq、両流体の温度差をΔt とすれば、熱貫流率U とは次のように簡単な関係で表される。
このような簡単な関係から、熱貫流率U を小さくすることが、熱損失を減らす上に大変重要であることが判る。 従って、住宅やビルの省エネでは熱貫流率を小さくするために壁、天井や床等の厚さや材料を工夫したり、ガラス窓の2重化等が有効になる。 我々が布団や毛布あるいは衣服を用いることも基本的には体と外気との間の熱貫流率を少なくすることが目的であり、暖かくて着心地がよい衣服や寝具とは、熱貫流率が小さいことを意味している。 ついでながら、衣服や寝具が湿っていると心地が悪い。 これは、水分を含むことで、衣服などの熱貫流率が増すためである。 同様な効果は住宅などに多用されている繊維断熱材についても同様であり、防湿処理が不十分な場合、省エネ効果は激減するばかりか、かえって熱損失を増すことに注意が要る。 空調機器、ボイラー類あるいは調理器具では、熱貫流率Uが小さいと伝えられる熱量が減少するので、Uを大きくするための努力が必要となる。 もっとも、調理器具などでは、簡単に料理などが冷めてしまうこともまずいので、一概にUを大きくすることも問題であり、いわゆる魔法瓶などでは真空断熱によって極端にUを小さくする場合もある。 (1.1)あるいは(1.2)式から判るように、熱貫流率Uは固体壁の熱抵抗を減らし、その両面の熱伝達係数を増すことに相当する。 固体壁の熱抵抗を減らすためには、その厚さを減らとともに熱伝導率が大きい材料を使うことが必要であり、固体壁両面の熱伝達係数を増すためには、流れをよくすることの他に、表面積(伝熱面積)を増す工夫が重要である。 熱貫流率Uを減らすこと、すなわち保温をよくするためには上の逆であることは言うまでもない。
2.熱輻射の基本 伝導、対流の他に熱の伝わるもう一つの形として放射あるいは輻射がある。(以下、輻射と呼称) 輻射による熱の移動は前の2つと異なり、物質中の伝導を介さず、真空中や輻射に対して透明な気体などを通過して光や電波と同様に電磁波(電波の仲間)としてエネルギーが伝達される現象である。 その最も大規模なものは、太陽からのエネルギーの伝達であり、地球環境問題に重要な地球温暖化問題も輻射伝熱と深い関係がある。 電気力線と磁力線が交互に絡んだ電磁波は空間中を伝わる波として理解されるが、波が空間中を伝わる速さは光の速度(約3億m/秒)と等しいため、波に特有な振動数と波長の関係が生まれる。 表2.1に示すように電磁波の仲間は波長の範囲によってそれぞれ異なった呼称が用いられる。 これらのうち、主な熱の輻射領域は可視光線に隣接してそれより波長の長い熱輻射線(赤外線)と呼ばれる領域であり、広い範囲の波長を含んでいる。 ここで注意しなければならぬことは、エネルギーを運ぶのは赤外線のみではなく、加熱された物体から放射される電磁波の大半が赤外領域にあり、その結果、赤外線が事実上、熱エネルギーを運ぶ結果となるのである。 他の波長域である紫外線、X線やガンマ線等もエネルギーを運ぶことに寄与するが、熱現象以外の効果を対象物に与えた結果、最終的に熱エネルギーに変化する点に違いがある。 その点では紫外線や電波等も同様である。
表2.1 電磁波の分類
(注)μμ:10-12m(1兆分の1m), μ:10-6m(百万分の1m、千分の1mm)
物体から輻射されるエネルギーとその波長は温度に応じて変化するが、その物体の輻射能と呼ばれる特性にも関係する。 そこで同一温度で最も輻射エネルギーの大きい「黒体」と呼ばれる理想化された物体を考えることにしよう。 一般に、最も輻射エネルギーが大きい物体は輻射を完全に吸収すること、換言すれば反射が全く起こらない物体であるが、そのような物体を黒体と呼び、黒体の輻射について考えることが熱の輻射について基本的な理解を得る上に大切である。 自然界に存在する固体、液体あるいは種々の気体等のような熱輻射を行う物体はそれぞれ特有の輻射能(各温度での輻射の度合い)を有し、黒体に近い(輻射をよく吸収する)ものから、殆ど輻射を吸収しないものまでがある。 また、そのような輻射能あるいは吸収の度合いは、波長によって異なり、それらの関係は複雑である。 従って、我々の視覚に感じる可視光領域で黒い(可視光線をよく吸収する)物体が、熱輻射に重要な赤外領域でも黒体に近いとは断定できない場合があり、その逆の場合もある。 例えば、大気に含まれる気体のうち、2酸化炭素(炭酸ガス)、水蒸気(雲や霧等の水滴ではない)及び冷媒などに使われるフロン等は紫外線や可視光領域では透明であるが、赤外領域では波長に応じて、複雑な吸収特性を有し、透明とはいえない。 同様な性質は塩化ビニル樹脂などの石油製品にも見られる。 このような性質は、太陽からの輻射のうち特定の波長域を除いて選択的に通過させるが、それらの輻射によって加熱された地表からの比較的長波長の輻射に対しては透明度が低い場合が生じる。 地球環境の保護に影響が大きいとされる2酸化炭素やフロンは、それらの輻射に対する性質が地球を取り巻く温室のように作用し、地球温暖化をもたらすと考えられている。 このような熱輻射を考える場合の複雑さを避けて、輻射に対する基本的理解を得るために黒体の概念が用いられると考えることもできよう。
2.1 黒体輻射と温度の関係 前記の黒体からの各波長当たりの輻射エネルギー強度J, 波長λ 及び絶対温度T の関係は有名な物理学者であるマックス プランク(Max Plank) によって導かれた次の法則(式)で与えられる。
ここで、定数c1、c2 は次のとおりであり、h はプランクの定数、k はボルツマンの定数と呼ばれる定数である。
図 2.1は、式(2.1)で求めた黒体からの輻射エネルギーと波長に対する絶対温度の関係を示した結果であり、それぞれの温度に応じて輻射される電磁波のエネルギーが広い波長範囲にわたって特有な曲線を描くことが判る。 図中に示すように、輻射エネルギーの大部分は赤外領域であり、放射エネルギーの強度が最大となる波長(以下、ピーク放射強度波長と呼称)は温度の上昇とともに短い波長側に移る。 その結果、左側の裾野部分が可視光領域にかかりはじめ、温度によって変化する波長成分に応じた色の光を発し始める。 可視光領域の左側は紫色であり、右端が赤色であることから、熱輻射線を赤外線と呼ぶ理由が理解されよう。 波長と温度の範囲をより広く見るため、図 2.1の縦軸と横軸をそれぞれ17桁と5桁の対数目盛にして示すと図 2.2となる。 図 2.2から温度の上昇につれて輻射エネルギー全体と特に波長が短い可視光域の輻射が急激に増すことが判る。 また、表2.1に示したように、相対的に波長が長い電波領域の輻射も微弱ながら起こっている。 このように温度によって、全波長にわたる輻射あるいは可視光領域のエネルギー分布や電波の性質が決まる。 このような原理で、太陽を黒体と仮定して求めた温度は、図 2.1中に示したように、5760K(約5500℃)と推定されている。
図 2.1黒体輻射の波長、輻射強度と絶対温度の関係
図 2.2黒体輻射の波長、輻射強度と絶対温度の関係(対数目盛)
図 2.1の曲線と横軸の間の面積は全波長にわたる輻射エネルギー(全輻射エネルギー)に相当するので、絶対温度Tと全輻射エネルギーEtの関係を図示すると図 2.3に示すように絶対温度の4乗に比例し、(2.2)式で表され、この関係をステファン・ボルツマン(Stefan-Boltzmann)の法則と呼ぶ。
Et = σT 4 (2.2)
(2.2)式の比例定数σ はステファン・ボルツマン定数と呼ばれ、 = 4.965 ×10-8 kcal/m2hr K4 (= 5.775×10-12 W/cm2 K4 ) である。 ただし、ステファン・ボルツマン定数σ の数値は教科書によっては若干の差がある。 全輻射エネルギーが絶対温度の4乗に比例することから、高温の伝熱では輻射による伝熱が大きくなることが理解される。 ついでながら、最大の放射エネルギー強度(以下、ピーク輻射強度と呼称)Jpと絶対温度Tの関係は図 2.3に示すように絶対温度の5乗に比例し、(2.3)で表される。
(2.3)
比例定数c1 は、ピーク放射強度 Jp を(kcal/m2・hr・μm)で表した場合、
である。 この値もステファン・ボルツマン定数σ と同様に、教科書によっては若干の差がある。 図 2.4は同じく絶対温度に対する全輻射エネルギーと可視光領域の輻射エネルギーとともにその全輻射エネルギーに対する割合を示す。 図 2.4から、可視光領域の輻射エネルギーの全輻射エネルギーに対する割合は、温度1000K(727℃)、1500K(1227℃)と2000K(1727℃)において、それぞれ7.4×10-4 %、0.13×10-4 %及び1.4 %に過ぎないが、光として輻射される割合は温度の上昇につれて急激に上昇することが判る。 逆に高温のフィラメントから輻射される光を利用する白熱電灯の発光器としての効率は非常に低く、エネルギーの大半は赤外線として輻射されることが判る。 フィラメントに使用されるタングステンの輻射能は黒体とは異なるが、近似的には黒体の輻射から類推できる。 ピーク放射強度波長λmax は、図 2.5に示すように絶対温度T(K) に反比例するウィーンの法則と呼ばれる次の関係で表される。
(μ m) (2.4)
(2.4)の関係からピーク放射強度波長を調べることによって、輻射物体が黒体または後に述べる灰色体と見なせる場合、その温度を知ることができる。 この原理で求めた太陽の温度は前記の値、約5500℃であることが知られている。
2.2 灰色体と選択輻射 上に述べたプランクの法則あるいはステファン・ボルツマンの法則で表される黒体の輻射は各温度及び波長に対して任意の物体からの輻射強度の最大値を示す。
図 2.3 絶対温度と全輻射エネルギー及びピーク放射強度の関係
図 2.4 絶対温度に対する全輻射エネルギー、可視光輻射エネルギーとその割合
図 2.5 黒体温度とピーク放射強度波長の関係(ウィーンの法則)
換言すれば、どのような物体からの輻射もプランクの法則で与えられる黒体の輻射強度を越えることはない。 実在する物体からの輻射は次に述べる灰色体あるいは選択輻射となる場合が一般的である。 図 2.1の黒体輻射の各温度に対する輻射強度の曲線を越えないがそれと相似の輻射強度分布をもって輻射する物体を灰色体と呼び、そのようなスペクトル分布の輻射を灰色輻射と呼ぶ。 灰色体から輻射されるエネルギーEは、次のようにプランクの法則あるいはステファン・ボルツマンの法則による黒体の輻射エネルギーEbに実験的な係数ε を乗じて計算することができる。
ここに、C及びCbはそれぞれ灰色体及び黒体の輻射定数であり、Cb = 4.965 kcal/m2・hr・K4 である。 一般に、係数ε は1より小さく、物質の種類や表面状態あるいは物理学的な励起状態によって異なる。 この係数ε をそれぞれの物体の吸収率または輻射率あるいは黒体度と呼び、灰色体の輻射エネルギーEを輻射能と名付ける。 灰色体の波長と輻射強度の関係は上に述べたように黒体と相似であるから、輻射強度が最大となるピーク放射強度波長は黒体のそれと同じ波長となるので前に述べたウィーンの法則が成り立つことになる。
2.3 種々の物体の輻射能 実在する多くの電気絶縁体や半導体の大部分は灰色体と見なして良いことが知られている。 他方、各種の気体や電気の良導体である金属とその酸化物では、輻射強度は全く不均一な分布となる。 各種気体あるいは蒸気の場合、波長域によっては全く輻射しない範囲と黒体に近い輻射強度を示す範囲が混在する場合が一般的である。図 2.5及び2.6はそれぞれ二酸化炭素及び水蒸気の輻射吸収率の測定例[1]であり、縦軸は上に述べたε と同等な黒体の輻射強度に対する比を示した吸収率であるが、ガス層の厚さや温度等に影響されることは図中に示す条件のとおりである。
曲線1:層厚5cm, 曲線2:層厚3cm, 曲線3:層厚6.3cm, 曲線4:層厚100cm, 図 2.5 二酸化炭素の輻射吸収率の測定例[1]
曲線a:127℃, 層厚109cm、曲線b:127℃, 層厚104cm、曲線c:127℃, 層厚32.4cm、 曲線d:81℃, 層厚4cm、曲線e:室温, 層厚7cm 図 2.6 水蒸気の輻射吸収率の測定例[1]
純粋金属の磨かれた新鮮な表面の輻射については、アシュキナスによって導かれている理論式から次の(2.6)で輻射強度J が得られる[1]。
ここに、Tは絶対温度(K)、ρ0 は電気比抵抗(kΩ・mm)、c1 はプランクの法則(2.1)で与えられた定数である。
(2.6)式は黒体に対するプランクの法則に代わって輻射強度を与える式であり、これから黒体に対するウィーンの法則に代わって、ピーク放射強度波長λpm (μ m) と絶対温度T (K) の関係について、次の(2.7)式が求められている。
(2.6)、(2.7)は既に述べたとおり、純粋金属の磨かれた表面の輻射についての式であり、通常酸化膜などで覆われている工業的な設備などの計算には必ずしも適当でない場合がある。 表2.2は金属材料の表面を含む半球面内空間に対する吸収率または輻射率ε と表面に垂直方向の輻射率 εn の例[1]を示す。 輻射による熱交換のより実際的な計算法等については、紙数の関係から次回に譲る予定である。
表2.2 工業用材料の法線方向輻射率εn と半球空間輻射率ε
参考資料 [1] U.グリグル、熱伝達の基礎、(坪内為雄、加藤清雄・訳)、朝倉書店
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